男は必ず浮気をする生き物か?というお話

これは,わたしが小金井市で経営していた「やわらぎ珈琲店」開店当初にちょくちょく来店してくださっていた女子大生2人組みとの会話の中で出た話です。実にくだらない。。話なのですが,mixi日記にアップしたら結構反響でかかったのでこちらにも転載しちゃいます。 

 

「男は必ず浮気をする生き物か?」


まず,ここではとりあえず「同時期に複数の女性と性的関係を持つ」ことを「浮気」と定義しておきます。

 
結論を先に書くと,「生物学的にはYES!だが,生態学的にはNO!」ということになります。 


なんのこっちゃよくわかりませんね。。では,この「生物学的にはYES」の根拠を二つ。。 


一つは「ゴリラ」「チンパンジー」「ヒト」の♂における,「全体重に占める精巣の重さの比率と婚姻(繁殖)形態の関連性」のデータ。 それによると,ゴリラの♂の精巣比率は0.02%(体重約200kgで精巣の重さ約40g),チンパンジーの♂の精巣比率は0.3%(体重約40kgで精巣の重さ約120g)であるのに対し,ヒトの♂の精巣比率は0.06%(体重約70kgで精巣の重さ約40g)だとのこと。 


ゴリラは1頭の♂が複数頭の♀を従えてプチハーレムを作って生活しており,ハーレムを作る際に♂同士の熾烈な「肉体闘争」が存在しますが,一旦ハーレム結成後には,ハーレム内の♀が他の♂と交尾する可能性は低く,「精子間競争」が激しくないために沢山の精子を作る必要がありません。(だから精巣は小さい) 


一方チンパンジーは複数頭の♂と♀が集団で生活しており,基本的に集団内の♂と♀は特定のカップルを作ることなく自由に交尾する「乱婚」状態にあります。従って,♂が自分の「繁殖成功率」を高めるためには,他の♂よりも一回あたりの射精量を多くし,なおかつ交尾回数を増やすことによって熾烈な「精子間競争」を勝ち抜く必要があります。(だから精巣が大きい) 


これに対して,ヒトの精巣比率はゴリラの約3倍でチンパンジーの約5分の1。。このことは何を意味するのでしょうか? 


明確な一つの結論を導き出すには無理がありますが,少なくとも,ヒトの♂は「乱婚」まではいかなくてもかなりの「精子間競争」があることを前提とした「生物学的構造」をしている,ことは間違いありません。 


もう一つのデータは文化人類学者の調査データで,全世界に存在する約850の民族の「婚姻形態」を調査したもの。 


それによると,約850の民族のうち,なんと83%強が「一夫多妻制」を認めており,「一夫一妻制」を定めている民族はわずか16%(一妻多夫制を認めているのは1%未満)だとのこと。 


この数字から考えるに,ヒトは「生物学的」には「一夫多妻制」を自然な形としており,一人の♂が複数の♀と「性関係を持つ」ことを前提としている生き物なのではないかと想像できます。

 
これが「生物学的にはYES」かもしれない。。という理由ですが,続いて「生態学的にはNO」であることのお話。。 


世界中の民族において83%強が「一夫多妻制」を認めているというデータを上記でご紹介しましたが,このデータには続きがあって,「一夫多妻制」を認めている民族の中で,実際に2割以上が「一夫多妻制」を実践している民族は3分の1にも満たない。。とされています。 


つまり,制度として「一夫多妻制」が認められていても,実際には「一夫多妻制は実践が困難」であることもデータから明らかになっているのです。 


それは何故か?。。 


ヒトにおいて大きな特徴の一つに,子供が成長して親離れするまで10数年(約20年)の年月を必要とするため,「子育てにおける母親の負担が極端に大きい」ということが挙げられます。 


従って,「子育て」において必然的に母親以外の手助けが必要になることになり,二世帯三世帯同居が当たり前で「集落」単位で共同生活する民族であればともかく,小さな「家族」単位での生活がメインである民族においては,「父親」である男の負担が大きくなることになります。これは「育児の手助け」に限らず「経済的な負担」も意味するワケで,結果,少数の「大富豪」を除けば,ヒトは「生態的に一夫一妻制を採用する」ことになるのです。(ちなみに,ゴリラの子育てに父親は一切必要とされません。だからハーレムの維持が可能なのです) 


ただ,ここで一つの疑問が。。ヒトがその進化の過程で「生態的に一夫一妻制を採用する」ようになったのであれば,進化とともにヒトの♂の精巣比率はもっと小さくなっていたハズではないでしょうか? 


(最近になって「男性の精子数が減少している」ことが「環境ホルモン」と関係付けられて問題になっているようですが,わたし的には「ようやく生態系に基づいて♂が進化(退化?)し始めた」とも解釈できるのではないかと思うんですけどね。。) 


わたしの勝手な推測ですが,ヒトの♂(=男)の精巣比率が退化(進化)しなかったのは,「女性が先に進化してしまったから」ではないかと。。 


多くの生物において,♀の発情期(生殖可能期)には,♂にもわかるような外見的変化が伴います。そのことによって「繁殖成功率」が高くなるからだと思われますが,ヒトの♀(=女性)にはそのような明らかな外見的変化がありません。なぜか? 


前記のようにヒトの♀(=女性)の場合,「子育ての負担」が極端に大きいため,男性を自分の元に「縛り付け」,他の♀との「繁殖」を阻止する必要があります。 


もともと「性行為=繁殖行為」ですから,もしも女性に「生殖可能期」を示すわかり易い「外見的変化」が存在すれば,男性は「生殖可能期」の他の女性を求めて常に「浮気」をしてしまう恐れがあります。 


しかし,「生殖可能期」をわからなくすることで「生殖可能期」以外にも常に男性と「性行為」を営むことが不自然でなくなり,それによって他の♀との「性行為」を阻止することが可能になります。その結果,ヒトの「性行為」には単なる「繁殖行為」以外の役割が生まれることになったのではないかと。。その「繁殖行為」以外の役割を「愛」として位置付けたのもおそらく「女性」なんじゃないでしょうか? 


ただ,その「女性の進化」は結果として「男性の進化を遅らせる」ことになってしまい,それが「男」を「生物学的には複数の女性との性行為を前提」としながら,「生態学的には一人の女性と添い遂げることが自然」だという「矛盾した存在」にしてしまったのではないですかね? 


重複しますが,「浮気」に関して男は「矛盾した存在」です。 女性にはそのことを理解した上で,「上手く男を手玉にとって」欲しいものですね。

 

※参考文献:オスとメス=性の不思議 長谷川眞理子著(講談社現代新書)